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【新古事記032】父になる

「あ、そうそう


僕ね、病院での出産に猜疑心があったんですよ」


「猜疑心?」


「いや、僕のクセというか…ちょっと世界を疑って見るクセがあるんですよ、昔から。


当時、病院っていうのは医者の都合で陣痛促進剤を使ったり、安易に帝王切開を選択する、と思っていました。


生まれたらすぐに母子は引き離され、子供は誕生と同時に隔離され、それが一生のトラウマになる…


でもそんなの不自然だ、絶対自然分娩がいいし、生まれたての赤ん坊を母親と引き離すなんておかしい。それに妊婦は病人じゃないぞ!


そんな風に思っていました」


「はぁ?陣痛促進…?自然分娩???」


陽は聞いたことのない言葉ばかりでどうしてよいかわからず、そのまま続きを待った。


「でも、そんなことなかったんです。


娘を受け取ってくれた看護師さんはね、娘のことを祝福してくれていました。少なくとも僕にはそう感じました。


そして、赤ん坊を母親に渡し…娘は母親の胸の上でしばらく気持ちよさそうに、完全に安心したように目を瞑っていました。


これ、カンガルーケアって言うんですけど、正直なところこんな時間作ってくれると思ってなかったんですよ。


そうやって、しばらくとてもゆったりとした穏やかな時間が流れていました。世界は僕が思ってるよりずっと優しかった。、


そのあとね、看護師さんに「胎盤持てますか?」って言われて。


持てますかって言われても、見たことも持ったこともないし。


で、「持てます」って見栄はってね、持ちましたよ、胎盤


胎盤…ですか」


陽には想像がつかなかった。


「その後は僕だけ分娩室をでて、しばらく廊下のソファかなんかに座ってました。


そしたらね、また陣痛室から声が聞こえてきたんですよ」


「え?声が?誰の?」


「「今、あんた寝てたでしょっ!!」「いや、寝てないって」ってね。


昨晩、「順調だね」って話してたご夫婦の声だったんです。不謹慎だけどおかしかったですね。ぜんぜん順調じゃなかったという…」


陽も思わず吹き出してしまった。


その後、看護師さんだったと思うんですけど、娘を連れてきて僕に抱っこさせてくれて…


それを見ていた掃除のおばさんが「かわいいわね」「パパそっくりね」って。


僕はどこがだよっ!って思いましたよ。


娘は僕の腕の中で静かに寝ていました。


あの顔は今でも忘れないなぁ


でも、その時もね、嬉しいって言うのはなくて…恐怖しかなかったです」